インタビューズ-学生時代の恋愛話など、差し支えのない程度で聞かせてください

「学生時代の恋愛話など、差し支えのない程度で聞かせてください」

では高校生の頃、生まれて初めて「人と向き合った」と実感させてくれた人のことを。

学年にすっごくきつい目で睨んでくる男子がいたんです。
違うクラスだし知らない子。

私はいつもその視線に怯えていたのですが、たまによそのクラスや部室で
見かけるその子は、男友達のボケによくツッコみよく笑い、チビで色白で眼鏡のくせに
バスケが上手で、「えっ、なんで?自分に向けるきつい視線とぜんぜん違う!」と、
気付いたら目で追いかけてしまう存在になっていました。

高校1年のバレンタインデー、期末考査を控え部活もなく家で
フガフガお昼寝をしていたら、妹が「お姉ちゃんに電話」と起こしに来ました。
携帯なんてなかった時代です。
出てみたらいつも睨んでくる男子からでした。

呼吸を整えるような間があって、それから「好きです付き合って下さい」と聞こえました。
瞬く間に心臓がおかしくなってぐらりとめまいがしたけど、
なんとか「私も前から好きでした」と声を絞り出しました。
口に出してみてようやく、私はこの人のことが好きだ、と自覚が来ました……。

随分あとになって彼から聞いた話ですが、彼は男友達と
”喋ったことのない女子に告白すべきか否か会議”を何度か繰り広げた結果
「もう玉砕してこいよ」と私のクラスメイトから電話番号を渡され、電話での告白に至ったそうです。

玉砕のつもりが想定外の好感触に彼は混乱して沈黙してしまい、
寝ぼけ頭の私もまた沈黙してしまい、その後、
「びっくりした。ああびっくりした。死ぬほどびっくりしたねえ。ゆめみたい」と、
お互いがお互いをびっくりさせた張本人同士なのにうんうん頷きあって、短い電話を終えました。

翌朝、学校のげた箱で彼と鉢合わせました。
昨日の電話はやっぱり夢だった気もするけれど確かめなくちゃ。
そう思って「おはよう」と挨拶したら、「おはよう」と笑顔が返ってきました。夢じゃなかった。

「嫌われてると思った」
「避けられてると思った」
「だっていつも睨んどったやん!」
「……ごめん。おれ眼鏡の度が合ってなくて。めっちゃ見てただけだよ」

それから彼とは一年ちょっと付き合いました。

海辺の街を、よく自転車で二人乗りして出かけました。
勉強のできる子で、好きな事しか頭に入らない私に根気強く勉強を教えてくれました。

私が左右を認識できないのはネタではなく本当の話なのですが、
彼は「てるこちゃんに左右を覚えさせる」と言ってくれました。
おかげで私はそれまでよりうんと早く、右左を答えられるようになりました。

「いつか人は死ぬけど自分が生きた証は残したいから
薬の研究をして新薬を作りたい」と夢を話してくれました。

……あー、いま思い出した。それで私は
「新薬は今すぐ作れないけどギネスにはチャレンジできる。縄跳びで一緒にギネスを目指そう!」
と提案して縄跳びを用意したのですが、ひとしきり飛んで疲れ果てた頃に
「てるこちゃん、これ、わけわからへん」と笑われたんだ。

学生時代の1年は大人になってからの1年よりうんと長くて、
すべてわかりあったような錯覚を起こしました。

もちろん錯覚でしかなかったし、若くて不器用だったからうまくいかなかったけど、
人を慈しむ心を教えてくれたその人には今でも感謝しています。

※この記事はTHEINTERVIEWS
津島輝子「右と左が分からなない若輩者でございますが」
http://theinterviews.jp/teruruより転載しました。

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