あの子のこと

同級生のSちゃんは、4回生の先輩と付き合っている。
もう大学生活が恋一色で、優先順位は専ら「彼>バイト>学校」みたいなかんじ。
チームプレイが重要な学科だから、彼のことやバイトを優先して制作に携わらないSちゃんを悪く言う人は多い。
……残念だけど、言われても仕方ないかなと思う。
同じサークルで、少しだけSちゃんと話をする機会のある私からすれば、決して悪気がある子では無いのだけれど…。

最近も、Sちゃんのことで少し嫌な話を聞く機会があった。
私から、なにか、Sちゃんに注意したほうがいいのだろうか。
それとも「そんな悪い子じゃないよ。大変なんだよ」とSちゃんをかばうべきだろうか。
優しさが難しいと言うことは、常日頃から痛いぐらいに感じているけれど、何が優しさで、何が甘やかしなのか。
そもそもそれ以前に、許すとか甘やかすとか注意するとかしないとか、そんな考え自体奢りでは無いのか。

取る姿勢が定まらないうちに、サークルの会議で久々にSちゃんに会った。
気にしていたものだから、真っ先に姿を探して声をかけた。
天気の話とか、ずっと不調を訴えている洗濯機の話だとか、他愛ない話をしているとSちゃんはとても元気そうだった。なんかホッとした。
会話が一段落して、なんとなくSちゃんの頭を撫でた。
…自分でもなんで唐突にそんな事したんかよくわからんくて、「なんや自分」と心の中で ツッコミを入れてしまったけど、Sちゃんはとにかく心細そうに見えた。
そうこうしているうちにSちゃんは隣で俯いて、しまいにはぽろぽろと涙をこぼし始めたので、自分の挙動の理由なんてどう でも良くなってしまった。

聞けば、卒業した彼がつい昨日、大阪を発ったらしい。
そうか、そうかと話を聞いた。
人の少ないBOX(部室棟)の隅っこで、しばらくそうしていた。

「心に穴が開いた。どう過ごしてよいか分からない」と言うSちゃんだけど、
彼女はたぶん、大好きな彼と離れたこれからが勝負なんだと思う。
授業もろくすっぽこず、学科の人らにも不信感抱かれ、友達も少ないという、切ない環境からのスタートになるけど、私はかばうんじゃなくて、注意するんじゃなくて、ただ、たまに遊びに誘ったり、授業に誘ったり、しようと思った。
とりあえず、春休みがあけたら、「どっかいこ」と、メールするつもり。
仲良くなれるといいな。学科に馴染めるといいね。