すっきり

高校の男友達がこれまで三度ほど、未練たらたらの私に「連絡先教えようか?」と声かけてくれた。
恐いからいいと断ってきたけど、今、私の手元には「彼」の連絡先が書かれた紙がある。

高校の時に、本当に好きで、真剣に付き合った人がいた。
17のバレンタインデーに、わたしから別れを告げた。
引き止めて欲しくて試した。最悪だ。
彼は「別れる」とも「待って」とも言わず「理由を聞かないとなんとも言えない」と言った。
それは全く予想しなかった返事で、だけどこれ以上ないくらい誠実で最もで、
自分はなんて馬鹿なことを言ったんだろうかと悔いた。

それから暫くの間、別れるやの別れないだの、これからは友達として仲良くしていこうだのそれは辛いだのと、高校生の恋愛にものごっつありがちなやり取りを経て、結局気まずくなり、すれ違っても挨拶すらしなくなって、高校を卒業した。

自分で壊しといて本当に馬鹿なんだけど忘れられない。
誰に好意を寄せられてもなにも響かない、彼がいい。
大人になれば誰でも、忘れられない人のひとりや二人、いるんじゃないかと思う。
未練や後悔といった荷物引きずって、いまちょうど大人になってく途中なんだろうと思うようにしてた。

昨年末の、B型肝炎の一件で、一瞬とはいえ本当に死ぬかもしれないと思った。
死ななかったけど、でも、人間なんていつ死ぬかわからんと知った。
「私の目標は笑って死ぬことです。」改めて自分に誓った。
人生の瞬間瞬間に全力を尽くせるように、治せる傷は治したいし、後悔は残したくない。
(すでに今までの人生で一つだけ、今更どうにもならなくて後悔してることがあるけど)

それで、彼に連絡しようと、決意した。
前述の男友達に、「連絡先を教えて欲しい」と言った。

死ぬかも知れんと思ったとき、今まで出会ってきた全ての人にありがとうを言いたくなったんだ。
彼にはお別れの時、ありがとうを伝えていないから、感謝の気持ちをメールに綴った。

案外すんなりと返信があり、何通か、取り留めもないやりとりをした。
「戻りたい」とメールしたら、一日置いて、返事があった。
「一日よく考えた。やけど、やっぱり無理やわ」

やんね。だって大学だって全く別のところだし、未だに好きは好きなんだけど、
私が好きなのは、過去のキミなんだと思う。付き合うとかは多分違うって、分かっとった。

返事をもらったら、なんか「は?」と思うくらい、心が軽くなった。
さっきまで感じていた彼を好きな気持ちが、全く無くなった。
どこまでも勝手な女だなー。一体全体なんなんだ。
連絡を取るその瞬間まで、「やっぱできないどうしようどうしよう」とピィピィ言って、
友人達を困らせ、心配をかけていたというのに。
(ホンマ、ここ最近毎晩来てもろて、すまんかった…感謝してるよ…)

女友達のカトーとありぷが、
「なんやぁ~~~~。めっちゃ心配したのに」
「……切り替えはや!!!」
と脱力した。

女は上書き保存、男は名前を付けて保存というけども、
かんっぜんにディスクがフォーマットされた。
自分でも恐い。

そしてこの、心の、開いたスペースに、何を入れたらいいのかわからない。