維新派主宰、松本さんを偲ぶ

劇団「維新派」主宰の松本雄吉さんが死去されたそうで。
喪失感、なのかな。フワ、と、時が止まったような気持ちになってしまった。

大人に近づき、それまで身の周りになかった都会の良質なお芝居に触れるようになって、
この目で初めて維新派のお芝居を見た時、舞台に立つ人の、巨大な装置の、圧倒的な存在感、非現実感、でも現実と地続きの変わらぬ人の営みに、とにかく開いた口が塞がらなくなった。

演劇の先生が言っていた「ピンとこない人はこないけど、ピンときてしまったら最後、なぜこれまで見てこなかったのかと後悔することになる劇団」という言葉が、頭を何度もリフレインしたっけなあ。

以後、国内の公演は大体見てきた。
昨年は、妊娠中でお腹が大きくて体調も悪くてすごい時期だったけど、
大阪市内で公演があるというので夫と二人で見に行った。

屋台村でよくわかんない異国の食べ物を食べて、異国の音楽を聞いて、黄昏時、ただ同じ芝居を見に来ただけの全然知らない人と話して、ほんとに誰そ彼だな、なんて思いながら、毛布にくるまって、一番前の席で
踊る役者の水はねを足に受けて、芝居を観た。

「どんなストーリーが繰り広げられていたのか、彼らの発する言葉が何を意味していたのか、全く分からないのに、いま感動している」
夫の言葉に、産まれてきた子供が少し大きくなったら、今度は三人で観たいなあと思ったんだっけか。

劇団はこの秋の舞台をもって最終公演とするするそうだ。
主宰、松本さんの思い入れの土地、平城宮跡の広大な野原で行われるのだとか。
観にゆけたらいいなあ。
私たちの住むこの世界の隣にたまたま存在していたあの異世界にさよならを言いたい。