死ぬまで長生きしたい(妊娠8ヶ月 29週6日)

妊娠8ヶ月 29週6日

私は途中でうとうとしてしまって見ていないんだけど、夫の話によると、探偵ナイトスクープで “死とは何か” という思考の迷宮入りをしてしまった娘をどうにかしてくれ、という依頼があったそうだ。

かんぺーちゃんが依頼人の元へ行き事情を伺って、結局
「おじいちゃんもおばあちゃんも死なないよ~~~大丈夫だよ~~~~」
と言って女の子を安心させる、という落としどころに着地したのだとか。

夫としては納得できなかったらしく、ではどのような対応すればよかったのかとモヤモヤと考えていたそうなのだが、曰はく、そもそも敬老の日におじいちゃんおばあちゃんずっと元気で長生きしてね、と声かけるのが間違っとるだろう、と。
人はみんな死ぬんじゃい、と。
ただ、元気で穏やかな時間が出来るだけ長く続けば良いという希望を持つことは間違っていないから、
「死ぬまで長生きしてね」あたりが、良いんではないか、と。

さすがだなあと夫を誇らしく思った。
人によっていろいろかもしれんけど、少なくとも私は「ずっと元気で長生きしてね」と言われたらウッとなる。
元気で長生きしなかった場合、自分を大切にしてくれているその質量の分だけ、相手を悲しみに暮れさせてしまうのでは? と考えてしまう。
でも、夫の言うように「死ぬまで長生きしてね」なら、相手が自分の死を受け入れる覚悟が垣間見える分、安心できる。

お腹が重たくて先にベッドに横になっていると、
「最近、目標が出来たんだけど」と、夫は言った。
「てるこさんのお葬式をちゃんとして、死ぬこと」
羽毛布団をばたばたと広げて寝支度をしながら、なんでもないことのようにさらっと言ってくれたのがよかった。
じわ、と身体に熱く血が巡る感じがして、それはメッチャうれしい、と感激すると、
「てるこさん、寂しがりやからね。めぞん一刻で“一日でいいから長生きして”っていう名台詞があるけど、翌日だと周りがドタバタ大変だろうし。それよか、てるこさんのお葬式をきちんとやってあげたい」と言う。

夫も横になり、手を繋いで
「いやあ、出来るだけ元気で、死ぬまで長生きしたいねえ」
と言い合った。

子を設けることになって、近頃は自分ひとりの人生だけでなく、向こう100年の未来を想うようになった。
できるだけ産まれてくる子のちからになりたい、とか、住みやすい世の中にしてあげたい、だとか。
生前、孫の顔が見たい孫の顔が見たいと連呼していた母が、いよいよ立てなくなって車いすになった頃、「あんたらが子どもを産む時には助けてやらんにゃあと思っとったのに。それだけが心残りや」と言っていたのをふと思い出す。

「まだ、なーんにもしてやれてないのに……」
いやいや、もう十分してもらってるよ! と、その時の自分は思ったけど、あの時の母の気持ちが、今なら少しわかる気がする。