“一緒にご飯を食べた回数が多い相手ほど別れが辛いものだ” と、誰かが言っていた。
彼の実家のおじいちゃんは癌が進行しきって、もういよいよ年内いっぱいだろうとの話らしい。
彼は会社に頼んで休みを貰い、今日から数日間地元へ帰ることになった。
私は一緒に行かないけれど、以前一度だけ、彼の実家でおじいちゃんと
朝ご飯をご一緒させてもらった時の事を思い出している。
おじいちゃんは彼の家の家紋に込められた象徴、その意味を私に話してくれた。
食事の時に好きな物から食べるか、嫌いなものから食べるか。
どちらの流派も間違っちゃいないんだけど、彼のおじいちゃんは
「好きなものから順に食べると、いつでもその食卓の中で “一番好きなもの” が食べられる」
という持論を持っているそうだ。素敵なおじいちゃんだな、と思った。
話は変わるけど、私たちがまだ大学生の頃、後輩が飼っていたハムスターの「もち」が死んだ。
焼いたもちみたいに背中のとこだけふんわりきつね色で、食いしん坊のかわいいハムスターだった。
後輩からそれを聞いた時、「あらそう。残念だったね」で済ませたけど、
彼と二人きりになってからわんわん泣いた。私だけが。 ハムスターのことが悲しくて。
彼は静観していた。
「人のことでそんなに泣けるのは、凄いなあ。俺は、そんなふうになれない。
冷たいのかもしれない。例えば家族に何かあったとして、ちゃんと悲しくなれるだろうか」
と言った。
めったに自分のことは話さない人だけど、その時は彼の本当の心に触れたと感じたのでよく覚えている。
家族に何かあったら。
彼は、悲しくて泣くだろうと思う。 長いこと一緒に過ごした今ならわかる。
私は大阪で、二人で食べるご飯を作って、彼の帰りを待っている。
人は誰しも死ぬまで生きる。 ただそれだけだけど、できれば笑顔が多くあればいいし、
食べることは生きることだと、私は思う。
一つでも多く刻んでゆけますように。
明日死んでも悔いがないように。
今日死んでも悔いがないように。