倦怠期と終わりの区別がつかない

元・彼氏、全身に蕁麻疹が出る。(…どうでもいいけど「元彼氏」と「モト冬樹」って似てる)
心労がかさむとアトピーで肌がぼろぼろになる子なので、
自分のせい(と、こないだ彼が起こした単車の事故のせい)だ、と思った。

背中に薬を塗ってあげた。相変わらず彼のテンションは低い。
「酒控えようかな。あと、食生活。」

まったくです。傍目に見て最近のあなたはは呑みすぎです。控えろ。馬鹿。

「一緒にご飯食べるー? …と言いたいところだけど、今の私は、
一緒にご飯を食べたって、なーんにもキミを元気にさせてあげられないからなあ」

茶化しておいた。

無言。

「ありがと。寝る」

部屋に戻ろうとする彼は私の顔すら見ない。もうね、こちとらなみだ目ですよ。

「あのさあ、わたしがいるから、ストレスで体、こうなっちゃった?
あのね、うち、この家出ようか?」

「それは違うよ。別にてるこさんのせいじゃない。」

「でもさあ」

無言。ものすげー無言。

「……なんだろうねえ。なんだろうか」

立ち尽くしてた彼が、ダイニングのいすに腰掛けた。
沈黙が続いて、冷蔵庫がブーンて言った。

「てるこさんがいるから嫌とか、そういうのは全くない。肌のことは無関係。
ただ、最近ずっと考えてて。俺、前にみたいに好きに戻れるんかな。自信が全くない。
でも、長く付き合っていると、ひとつきやふたつきは、こういうこともあるんかなあ、とも思う。
もし気持ちが戻らなかったとしても、てるこさんだからこんなに長く一緒にいれたとも思う」

「こういうことは、あるもんだって会社の人が言ってた。誰といたってそうなら、
これでくじけちゃ誰とも分かち合えないから、私はどうにかしたい。
けど、一人のことではないから、二人のことだから、何よりあなたが
一番楽なようにしたい。それが別れるということであっても、しょうがないと思うよ。
私は嫌われて当然のことをしてきたし」

「嫌いではない。てるこさんのことは今でも尊敬しとるし……」

「尊敬されるような人間じゃないよ。好きな人に愛想付かされるくらいちっぽけよ。
本当は私に言われて嫌だったことが沢山あったでしょう」

私が泣く。

「わたし酷いことばっか言ったよ。大好きなサークルも行くなって言ったし、
カメラが好きだって夢もキミには無理だと否定したし、”もう他の人のところへいこうかな”て言った。
2回目、留年して、それでも、一緒に居ようって、自分で決めたのに、
全然腹くくれとらんくて、嫌なことばっか言って、そんなん、好かれんで、あたりまえやん」

彼も泣く。
なんで、あんたが泣くの。

「てるこさんは悪くない。留年したのだって、サークル行くなって言われたって、
俺の自業自得やし、てるこさんに何か言われて嫌だなと思っても、
全部元をたどれば俺が悪い。おれが、もっとちゃんとしてれば、
こんなことにはならなかったのに」

「そんなん、言ったって、留年したもんはしょうがないし、うちらのことだって、
壊れたもんはしょうがないやん。 でもさ、少なくとも溜め込んでちゃなんも変わらんよ。
ましてや私を好きになんて戻らんよ。キミは留年してから、いつも私に見捨てられるんが怖くて、
後ろめたくて、嫌われたくなくて、随分無理をしていたよ。嫌なことも我慢して、
言いたいことを言えなくなってたよ。今からだっていいから、もっと伝えてよ。

「嫌だったことなあ、急には思いつかん」

無言。

「きみはえらく私を愛してくれてたから、すげえテンション高いとこから
急に落とされた感じなのかもしれない。
落差があるから、それが嫌いのラインまで転落してるのか、それともまだ好きなのか、
判断しづらい状態なんだと思う」

「そうかもしれない」

「私は、きみのこと、好きだよ。お弁当も、おいしいの作る。皮膚、良くなるといいね」

「ありがとう。 ……寝る」

椅子を立ち部屋に戻る。

「ねる、じゃなくて、ご挨拶は?」

「おやすみ」

「顔見て言いなよ」

「おやすみ」

私としては向き合いたい気持ちもあるんやけど、正直こうなってから
酒ばっか呑んでたり漫画ばっか読んでたりサークル行って遊んでばっかの
彼の様子を見ていると、げんなりする部分もある。
2度目の留年の時、彼は親にも私にも「なにしてたの」と言われまくったけど、
何してたのかわかった。
こういう、自分の好きなことしかしないだらしない生活をしてたんだ。
だから2回も留年して、今だ就職も決まらないんだ。

本当にこの人でよいのか、私もまた考えなくてはならない。

でも、誰しもどうしようもない部分はあるんじゃないか?
いいところだって沢山知ってる。

事態が好転するのが早いか、私の愛想が尽きるのが早いか……。
でも、大切にしたいとは思うのだ。今のところは。

矛盾ばかりで苦しいな。